人格を育てるための健康相談
-事例を通して- 中学校編
著 | 野口法子 |
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判型 | B5頁:128 |
ISBN | 978-4-434-23545-0 |
発行 | 2017年8月 |
定価 | 2,037円(本体1,852円+税)
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学校現場に教師以外の他職種、例えばスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)が導入されるようになり、また、学校が各種の専門機関と連携して、子どもたちの危機を教職員と地域ぐるみで救い上げようという動きが見られるようになりました。これは、教員と保護者だけでは対応しきれないような状態に子どもたちが直面しているということを示しています。子どもたちの貧困化が叫ばれる中で、社会的制度の改良や、専門機関での高度な対応は必要なのですが、現状はまだまだ不十分であり、加えて教育予算、福祉関連の予算の削減等もあり、今後も期待することはできません。
また、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の各学校への派遣は、多くて週に1回程度といったような現状で、私たち教員は、子どもたちにどのように対応し、教育していけばよいのかを再考する必要があります。
養護教諭は、その専門性を活用しながら子どもたちを教育していくことが仕事です。そのためには、「教育とは何であるか?」ということを自分自身の言葉で述べることができる必要があります。その問いに対しては、第一に「子どもたちをどのような人間に育て上げたいのか」を明確にし、第二に「そのような人間になるには、子どもたちが、どのような力をつければよいのか」を考えることが必要です。そして、子どもたちがその力をつけるために、私たちは、養護教諭の専門性を活用し、どのように教育を展開していくかを構築する必要があります。
筆者は、25年間の公立小中学校養護教諭の経験(中学校21 年・小学校4年間)と、8年間(現在も継続中)の大学での養護教諭養成経験を生かし、専門機関につなげる必要のない日常的な健康相談を通して、どのように教育を展開していくかを述べていきます。
筆者が出会った、できるだけ多くの生徒たちの事例を基に、生徒たちの変化の様子を年代別に考察しつつ、また、“養護教諭の専門性とは何か”ということにも触れながら、より具体的に、より解りやすく述べることとします。この本に出てくるたくさんの事例は、保健室での生徒たちの様子とその対応を多くの先生たちに伝え、彼らへのよりよい支援策を学校全体で考え実施していくために、筆者が教職員向けに発行していた通信からの抜粋です。そのため、それぞれの事例の末尾には、われわれ大人や教師が子どもたちを理解するために「どうするべきか」の一言が添えられています。
養護教諭になろうと勉学に励まれている学生の皆さん、採用年数がまだ一桁の先生方、中学校で悩まれている先生方に、この本が参考になれば幸いです。また、ベテランの先生方からは、忌憚のないご意見を頂き発展的な討論ができれば、この上ない喜びです。
2017年7月 野口 法子
- はじめに
- (1)理論的・抽象的思考ができるようになる
- (2)理論と実践の矛盾が起こる
- 事例1 中学3年生のY君
- (3)もう一人の自分が大きくなる
- 事例2 中学2年生のN君
- (4) いろいろな悩みや矛盾の中で自分自身をどうしてよいのかわからない時期
- 事例3 自分がわからない
- (5)人格形成・連帯感→自立へ
- 事例4 おまえ、こら、軟弱!
- (1)それぞれの課題とは―事例1・2・3 より―
- (2)それぞれの課題―1984〜1989年の事例より―
- 事例5 「ひとりで受けます!」―ころげまわるT 君―
- 事例6 子どもを捉えるとは―K子を通して―
- 事例7 「オレが、がんばったら……」
- 事例8 友だちの支えのなかで
- 事例9 自分の意志への挑戦
- 事例10 だからといって…
- 事例11 友人を見つめながら「オレやったら」
- 事例12 人生終わりみたいや
- 事例13 むなしいな~!
- 事例14 女子生徒からの手紙
- 事例15 オレ、ヤンキーやしな
- 事例16 自立
- 事例17 懐かしい自分
- 事例18 連帯の中で
- 事例19 中学2年生―3月20日―
- (3)それぞれの課題―1990〜1994 年の事例より―
- 事例20 先生、ボクと話す時間とってや!!
- 事例21 友人の手助け
- 事例22 つよ~いみかた
- 事例23 心から話せる友だちがほしい
- (4)それぞれの課題を見つけるためには―毎日のSOAP記録―
- 事例24 負けず嫌いのS さん
- (5)それぞれの課題を見つけるためには―SOAP Summary―
- (6)SOAPでの毎日の記録やサマリーを作成することのメリット
- (1)1984~1989 年の中学生たち
- (2)1990~1994年の中学生たち
- 事例25 Aちゃん
- 事例26 話してくれない
- 事例27 2年生 Oさん
- 事例28 思春期妄想症 3年生Mさん
- 事例29 保健室登校 3年生Kくん
- (3)1995~1999年の中学生たち
- 事例30 見えないところで
- 事例31 身体計測から “私、自分のこときらいや!!”
- 事例32 自分の居場所
- 事例33 友達はエネルギー源!
- 事例34 保健室を砦に―カメ、そしてペンギン… ―
- 事例35 心はキレイねんで!
- 事例36 そばへそばへ
- 事例37 トゲトゲしい2年生!
- (4)2000~2005年の中学生たち
- 事例38 不登校のAちゃん「それは、抜いているんや!」
- 事例39 「休みの日は何してる?」「勉強してる!」
- 事例40 「保健室、どうや?」
- 事例41 1/2+2/3=3/5
- 事例42 友達のことがいちばん大事
- 事例43 「クラスを盛り上げたいんや」
- 事例44 「これ、Kの体操服やし」
- 事例45 「K先生、膝、悪いやん。」
- 事例46 「今、○○さんと話したいんや。」
- 事例47 卒業生もやってくるよ
- (1)子どもの様子は変化する
- (2)子どもが主人公の教育
- (3)教育観を発見するには
- (4)SOAPと養護教諭の専門性
- 参考文献
- おわりに
出版助成
関西福祉科学大学学術叢書出版助成