電磁波伝送序説
著 | 風間保裕 |
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判型 | A5頁:354 |
ISBN | 978-4-434-24434-6 |
発行 | 2018年4月 |
定価 | 4,950円(本体4,500円+税)
在庫:○
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現在では光もX線も電磁波であることは疑いのない事実であるが,光の波動説は1690年に Christiaan Huygensにより “光についての論考” の中で提唱され,一方X線の電磁波説は1912年のMax Theodor Felix von Laueによる回折現象の発見によるものである.
さて,電磁波の存在は1864年,James Clerk Maxwellが王立学会の発行する学術論文誌 The Philosophical Transaction of the Royal Society に“A dynamical theory of the electromagnetic field ”という表題の論文を発表し,その存在を予言したことに始まる.その後,1888年のHeinrich Rudolf Hertzによる実証実験,Guglielmo Marconi 等による無線電信機の開発を経て今日では大人も子供も便利に使いこなすスマートフォンの時代にまでになった.ちなみに我が国おいても明治30年(1897年)に当時の逓信省電気試験所の松代松之助氏により自ら開発した無線電信機を用いた通信実験に成功しているが,このことはあまり世には知られていないようである.
昨今,電磁波は様々な用途に使われ,これまで主流とされた無線通信やレーダ以外に,例えば MRI等の医療機器にも使われるようになった.現在著者の勤務する医療系学部においても有限要素法やFDTD等のシミュレーション・ツールを用いてハイパーサーミアの研究,マイクロ波帯によるマンモグラフィーの研究,あるいはMRIに使用する励振用パルス発生器に関する研究等が行われているが,近年増加している粒子治療用の Linac 等の加速器には導波管が用いられるためマイクロ波についての知識も必要になっている.
このような電磁波に関する研究を行うにはMaxwellの方程式に言及する必要があるが,Maxwellの方程式を扱うには数学的知識が必要となる.しかしながらこれまでの解説書では式の導出については不十分であり,そのため興味はあるが途中で諦める学生も見受けられた.
著者は学生時代にMaxwell方程式に興味を持ち,多くの解説書や学術論文を読ませて頂いた.読んだ書物の理論式についてはできる限り式の導出を試み,導出した式はA4の用紙にまとめることにした.社会人となってからも電磁波関係の仕事に従事することができ,まとめた資料もA4ファイル数冊になった.還暦を過ぎて,たまたまこれらのファイルにお世話になった.ファイルを見ながら我ながらよくここまで資料が溜まったものだと感心したが,同時に現在勤務している学生を思い出して,折角なので電磁波に興味のある学生のためにまとめた本にしておこうと思い立ち,この資料をもとに式の解説も含めてまとめ直したものが本書である.
本書は1章から11章の構成となっている.1章ではMaxwellの方程式に取りかかる準備としてMaxwellの方程式が誕生するまでの電磁気学の歴史のようなまとめを行った.2章から5章においてはMaxwellの方程式による電磁波の発生,またその方程式から得られる電磁波の基本的な定理などを説明している.6章では電磁波応用の典型であるアンテナについての定義を説明し,7章から9章ではアンテナを具体例として放射問題について扱っている.また10章,11章では電磁波を伝送するための伝送回路の解説にあてている.
これまでの解説書では式の導出に苦慮することが多い点を考慮し,本書では特に式の導出過程を重視した.従ってできる限り詳細に式の導出過程を解説したつもりである.しかしながらもとにした資料の多くは式の羅列であり,式の意味するところなどは後日読み返した時必要と思われる個所以外は書かなかった.今回,そのための説明の追加やパソコンによる図の作成まで手掛けたので,読み返すたびに間違いを見つけ,未だ納得するには至っていないと著者自身も自覚している.また著者の浅学菲才のために,説明が不十分で不明瞭なところや,また独り善がりの解釈から考え違いしている点も多々あると思う.不適当な記述や間違いがあればご寛容をお願いするとともに,ご叱責頂ければ幸いである.
本書を執筆するに当たり,参考にさせて頂いた文末に掲載した文献,あるいは記載はしなかったが参考にさせて頂いたその他多くの学会論文や書籍等の著者にこの場をかりて厚くお礼申し上げる.また家庭の仕事には一切手伝いせずに過ごす日々にも係らず不満一つ言わず助けてくれた妻,喜久子に感謝する.最後に,本書の出版に際して何かとお世話になった株式会社翔雲社の武内秋子女史には謹んで感謝の意を表するものである.
2017年10月
著者
- まえがき
- 1.1 はじめに
- 1.2 クーロンの法則
- 1.3 電界と電位
- 1.4 ガウスの定理
- 1.5 保存力の場
- 1.6 電流
- 1.7 アンペアの法則とビオ・サバールの法則
- 1.8 電磁誘導の法則
- 1.8.1 起電力
- 1.8.2 電界と磁界
- 1.9 変位電流
- 1.10 Maxwellの方程式
- 2.1 Maxwellの方程式と波動方程式
- 2.2 Maxwellの方程式の解法
- 2.2.1 ベクトルポテンシャルとスカラポテンシャル
- 2.2.2 ポテンシャルの解
- 2.2.3 ヘルツベクトルによる解
- 2.2.4 電磁界の積分解
- 3.1 微小ダイポールからの放射
- 3.2 微小ループからの放射
- 4.1 平面波とは
- 4.2 平面波の偏波
- 4.3 平面波の反射と屈折
- 4.3.1 入射電界が入射面内にある場合
- 4.3.2 入射電界が入射面に垂直な場合
- 4.3.3 スネルの法則
- 5.1 境界条件
- 5.2 鏡像原理
- 5.3 相反の定理
- 5.4 リアクション
- 5.5 双対性
- 5.6 解の唯一性
- 5.7 等価定理
- 5.8 誘導定理
- 5.9 物理的等価と物理光学的等価
- 5.10 フェルマーの原理
- 6.1 ポインティングベクトル
- 6.2 複素電力
- 6.3 アンテナ放射特性
- 6.3.1 放射指向性
- 6.3.2 送信アンテナの利得
- 6.3.3 アンテナ入力インピーダンス
- 6.3.4 動作利得
- 6.4 アンテナ受信特性
- 6.4.1 アンテナ受信指向性
- 6.4.2 受信アンテナの入力インピーダンス
- 6.4.3 受信電力
- 6.5 フリスの伝達公式
- 7.1 直線状導体アンテナのポクリントン形モーメント法
- 7.2 重み付き残差法,変分原理とモーメント法
- 7.3 ガラーキン法によるモーメント法解析
- 7.4 リアクションによる積分方程式
- 7.5 電源
- 8.1 物理光学的手法の基礎
- 8.2 等価電流の別な解釈
- 8.3 点波源への適用
- 8.4 パラボラアンテナへの応用
- 9.1 Maxwellの方程式の時間差分化
- 9.2 吸収境界条件
- 9.3 格子間隔と時間ステップ
- 10.1 同軸線路
- 10.2 同軸線路内の電磁波
- 10.2.1 主波
- 10.2.2 高次モード
- 10.3 同軸線路の等価回路
- 10.4 線路方程式とその解
- 10.5 γの物理的意味
- 10.6 進行波と反射波
- 10.7 有限長線路の式
- 10.8 電圧と電流の係数決定
- 10.9 無損失線路
- 10.10 Maxwellの方程式との関係
- 10.11 反射係数
- 10.12 送信端インピーダンス
- 10.13 受信端短絡線路
- 10.14 受信端開放線路
- 10.15 短絡開放線路の応用
- 10.16 定在波
- 10.17 インピーダンス変成
- 10.18 最大電力の伝送
- 10.19 スミス図表
- 10.20 電力伝送
- 11.1 導波管の概要
- 11.2 方形導波管
- 11.3 導波管内の電磁界
- 11.4 方形導波管内の電磁波の伝搬
- 11.5 群速度
- 11.6 導波管のモード
- 11.7 電磁波の伝搬定数
- 11.8 導波管壁の電流
- 11.9 方形導波管モード
- 11.10 円形導波管
- 11.11 円形導波管内の電磁界
- 11.12 モードの呼称
- 11.13 円形導波管の特徴
- 11.14 平行2線による導波管の高次モードの考え方
- 付 録
- 1.主要定数
- 2.ギリシャ文字
- 3.三角関数
- 4.双曲線関数
- 5.ベクトル公式
- 6.直角座標系
- 7.円柱座標系
- 8.球座標系
- 索 引
- 補足 1
- 補足 2
- 補足 3
- 補足 4
- 補足 5