イネ菌核病
病原菌の特徴・動きと発生生態
著 | 稲垣公治 |
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判型 | A5頁:155 |
ISBN | 978-4-434-27839-6 |
発行 | 2020年8月 |
定価 | 2,750円(本体2,500円+税)
在庫:○
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イネの出穂前後に、その株元の部分から発病し始め次第に株の上位の葉鞘部へ進展する菌核病には、イネのいもち病と同様に重要病害である紋枯病や、他にいくつかの種類の重要な病気が含まれていて、それら個々の病気の病徴による水田での病名判定は難しい場合が多い。その原因としては、各種の菌核病がイネのほぼ同じ生育時期に発生することや、よく似た形状の病斑を作ったりすることなどである。
これら各種の菌核病の水田における発生の特徴やそれらの病原菌についての研究成果は、主に1910年代から1930年代にかけての我が国の研究者による精力的な活動に基づくことが多い。菌核病の調査・研究は今日まで、このように長期にわたっているため、この期間中ではイネの栽培様式の変化、温暖化にともなう気候変動、また病原菌である菌核病菌の分類的所属の変遷も著しい。このような各種の変化や変動などに対応して、近年、水田における菌核病菌の動態と菌核病の発生生態について、様々な角度から興味深い内容が数多く報告されている。そのため、本書では菌核病の発生生態や菌核病菌の各種形態的、生理的特徴などについて最近の知見も踏まえて種々の情報提供を行い、これらのことを通して我が国の地理的に異なる地域での菌核病の発生様相、水田における植物病原糸状菌:菌核病菌の多様性と病害発生との関連を理解する。これら各種の情報が、菌核病診断とそれにともなう病害防除、さらには今後の本分野におけるさらなる調査・研究活動に資することができれば、現在、農業・農学に携わっておられる方々に有益となるのではと考えている。なお、これらイネ病害の概説には、病原菌の学名や各種器官、病名などの基本的な専門用語の使用が求められるが、これにはできるだけ英和対応で記述する。
本稿を取りまとめるにあたり、多くの研究機関や研究者の方々に図表の使用等でご理解とご協力をいただいた。ここに心より感謝の意を表します。また、本書の作成にあたり、懇切丁寧にご指導いただいた翔雲社の編集部の方々に対して厚くお礼申し上げます。
2020年初夏 稲垣 公治
- まえがき
- 第1節 菌核病の種類と発生時期
- 1.菌核病の種類と研究史
- 2.発生時期
- 第2節 紋枯病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 3.寄主範囲
- 第3節 赤色菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 3.寄主範囲
- 第4節 褐色菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 3.寄主範囲
- 第5節 灰色菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 3.寄主範囲
- 第6節 球状菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 3.寄主範囲
- 第7節 褐色紋枯病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 第8節 褐色小粒菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 第9節 さび色小粒菌核病
- 1.研究小史
- 2.病徴
- 第1節 菌核病菌の培養
- 1.培養
- 2.分離
- 3.菌糸融合
- 第2 節 RhizoctoniaおよびSclerotium属菌の分類的位置づけ
- 1.分類
- 2.RhizoctoniaおよびSclerotium属菌の特徴
- 3.Rhizoctonia属菌の類別
- 第3節 菌糸・菌核・有性器官の形態
- 1.菌糸
- 2.菌核
- 3.有性器官
- 第4節 菌生育、菌核および子実層形成と温度・pHとの関係
- 1.温度
- 2.pH
- 3.子実層形成
- 第5節 菌核の内部構造と発芽様相
- 1.内部構造
- 2.発芽様相
- 第6節 菌糸細胞核数
- 第7節 ビタミンによる生育促進
- 第8節 窒素源と炭素源
- 1.無機態N利用
- 2.有機態N利用
- 3.C源利用
- 第9節 菌体構成脂肪酸
- 1.脂質含有率
- 2.構成脂肪酸
- 第1節 菌核病菌のイネへの感染と病原性
- 1.感染(担胞子を含む)
- 2.毒素生産および病原性とその評価法
- 第2節 世界および我が国における菌核病発生
- 1.世界における発生
- 2.我が国における発生
- 第3節 水田における菌核病の発生様相
- 1.イネ株内葉鞘上における発生位置
- 2.水田における混合発生
- 第4節 イネおよび各種野菜の生育初期における発病
- 第1節 菌糸和合性群(mcg)
- 第2節 水田内におけるmcg数
- 1.イネ1株内のmcg数
- 2.1水田内のmcg数と分布様相
- 第3節 菌核病菌の水田間における移動
- 1.直近の2水田間での菌移動
- 2.近隣の多水田間での菌移動
- 3.水田における菌(mcg)の出入り数
- 第1節 水田における菌核病菌の年次消長と生存
- 1.菌核病菌(mcg) の年次消長
- 2.田植え前水田における菌生存の実態
- 3.田植え後水田における菌生存の実態
- 4.菌糸・菌核の生存能力
- 第2節 菌生存に関与する諸要因
- 1.諸要因
- 2.菌生存と病原性・水田内分布との関係
- 第3節 水田雑草上での菌の越冬・生存と、雑草のイネ発病への寄与
- 1.雑草上での菌生存
- 2.雑草および土壌残渣上生存菌によるイネでの発病
- 第4節 CO2 および O2 の菌生育・生存等への影響
- 1.菌糸生育
- 2.菌核の生存
- 3.菌核形成
- 4.菌核発芽
- 第1節 米の品質・収量への影響
- 1.赤色菌核病
- 2.紋枯病
- 3.褐色菌核病
- 4.灰色菌核病
- 5.褐色紋枯病
- 6.紋枯病と他菌核病との組み合わせ
- 第2節 肥料成分およびイネ品種と菌核病発生
- 1.窒素
- 2.3要素
- 3.イネ品種
- 第3節 耕種的および生物的防除法
- 1.耕種的防除法
- 2.生物的防除法
- 第4節 化学的防除法
- 1.赤色菌核病
- 2.褐色菌核病
- 3.紋枯病
- 4.灰色菌核病
- 5.褐色紋枯病
- 第5節 微量要素およびSiの各種菌核病菌生育と発病への影響
- 1.菌生育への影響
- 2.菌核発芽への影響
- 3.紋枯病菌の発病に及ぼす影響
- 第6節 菌核病の伝染環