こころをつなぐ
~身近な人に自殺の危険が迫ったら~
著 | 小嶋秀幹 |
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判型 | 四六頁:132 |
ISBN | 978-4-434-29863-9 |
発行 | 2022年2月 |
定価 | 1,650円(本体1,500円+税)
在庫:○
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電子版 | 1,320円(本体1,200円+税)
在庫:○
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皆さんは「死にたい」と思ったことがありますか。厚生労働省による自殺対策に関する意識調査(平成二八年)によると、これまでの人生の中で本気で自殺を考えたことがある人の割合は二三・六%、そのうち一年以内に自殺を考えた経験がある人の割合は一八・九%でした。「死にたい」と思ったことがある人に関わったことがある人は、その家族や友人、職場の同僚や学校の同級生など、身近な人だけでもその数倍はいる可能性があります。この本の読者の中にも、既に身近な人から死にたいと相談された経験がある方もいるかもしれません。
日本は世界の中でも自殺が多い国の一つです。バブル経済の崩壊後、不況に陥った一九九八(平成一〇)年~二〇一一(平成二三)年には年間三万人を超える自殺者があり、大きな社会問題となっていました。このような状況の中で、国は二〇〇六(平成一八)年に自殺対策基本法を制定し、その翌年から自殺総合対策大綱に基づき、全国各地で様々な自殺対策が開始されました。
私は、自殺対策基本法が制定された頃から勤務地である福岡県内で、自殺対策研修会(いわゆるゲートキーパー研修会、ゲートキーパーの説明については後述)の講師を継続してきた大学教員(精神科医)です。そして、二〇一一年ごろからは、福岡県内で自殺予防の啓発劇を、私が勤務する大学で臨床心理学を専攻する大学院生の協力を得て実践してきました。本書は、その取り組み内容の一部を紹介したものです。
私が演劇を自殺予防教育に取り入れたきっかけは、平成一八~二〇年に福岡県中間市で民生委員・児童委員の方々を対象として自殺予防研修会の講師をしていた頃にさかのぼります。当時、私は、自殺予防研修の一環として、自殺と関連のある精神障害(うつ病やアルコール依存症、統合失調症など)の基礎知識と、そのような障害を持つ方との関わり方の講話をしていたのですが、研修に参加した方々から研修後に「もっと事例を出して具体的に説明してほしい」、「内容は理解できるが、関わることは自分にはできそうにない」、「テーマが深刻な上に、研修時間が長くてつらい」といった要望が寄せられました。そのような要望に直面し、研修内容の具体化、研修時間の短縮化について試行錯誤する中で、研修に演劇を盛り込む発想が浮かびました。
まずは、「どうすればよいのかを具体的にみてもらえばよいのではないか」と考えました。一回の短時間の研修で、いかにわかりやすく、印象づける内容にするか。こころの危機に陥った人に関わる不安、緊張、息遣いをわかりやすく伝え、死にたいと悩んでいる人に積極的に関われるような意識をもってもらう。自殺の心理を学ぶことは、大抵楽しくないが、できるだけリラックスして楽しく学んでほしい。それができそうなツールが演劇でした。
そして、ありがたいことに私の所属の大学院心理臨床専攻の学生達が演技者として積極的に参加してくれたことにより、演劇による自殺予防教育が実施できたと思います。彼らの多くが現在は心理職として様々な現場で働いています。
なお、自殺をテーマとした演劇や映像による啓発の注意点については既に世界保健機関(WHO)が、現実に基づいたストーリー展開であること、困難な状況に屈しないことやそうした状況から立ち直る力、また効果的な問題対処の方法を示している人物や物語を取り入れること、自殺の行為や手段に関する描写を避けること等の見解を示しており、私の実施している啓発劇もその注意点に沿った内容になっています。
本書で、皆さんには、私がこの一〇年間に実施した自殺予防の啓発劇のシナリオの中から六つのシナリオを読んでいただき、万が一、身近な人が死にたいぐらいつらい状態に追い込まれていることを知った際にどのような関わり方をしたらよいのか、その心構えについて具体的に学ぶ機会にしてほしいと思っています。心の病気のことや自殺についての知識がほとんどない方でも、こころの不調や自殺の危険がある人との関わり方や支援について具体的に知ることができる内容になっています。
第一章、第二章に自殺予防の基礎知識、こころの不調に陥った人と対話する際の注意点をまとめています。まずはこれらの章を読んで頂き、第三章の事例シナリオを読んで頂くと、具体的に自殺の危険が迫った人の心理や身近な人としての関わり方を理解しやすいと思います。
コロナ禍で、身近な人とのコミュニケーションもとりづらい世の中が続いていますが、このような時期だからこそ、身近な人のこころの不調についての支援について考える機会になればと思っております。
- まえがき
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- 自殺者の多くは、うつ病になっている
- ゲートキーパーとは
- ゲートキーパー研修
- うつ病の診断と治療について
- うつ病になる過程
- 「死にたい」という際の心理
- 1.「り」(リスク評価)
- 心の状態を知るように努めましょう
- 自殺を示唆する発言があった際の対応は
- うつ病や自殺は軽く評価されやすい
- 2.「は」(判断批評をせずに話を聴くように努める)
- 悩んでいる人の理解を最優先に関わりましょう
- 話の切り出し方を工夫しましょう
- 傾聴し、共感することが基本です
- 聞き返しと要約が有効です
- ありのまま受け入れましょう
- 一緒に考えましょう
- 3.「あ」(アドバイスする前に安心や情報を与える)
- 親身で温かい態度をとりましょう
- 特別な時間を設けましょう
- 自分の意見(提案)は、できるだけ遅らせて言いましょう
- 4.「さ」(サポートを得るように勧める)
- 相談機関との連携を目標にしましょう
- つなぎ先を知っておきましょう
- つなぎ先を提案しましょう
- 相手がつなぎ先に行くのを拒否した場合には
- 5.「る」(セルフヘルプ)
- 問題解決につながる行動を認めましょう
- 話を聴かせて(大学生のうつ病)
- 悩みを話して(介護うつ病)
- こころをつなぐ(シニア世代のうつ病)
- ただそばにいてほしい(高校生の自傷行為)
- ひとりで悩まないで(勤労者のうつ病)
- 悩みに気づいて(高校生の統合失調症)
- あとがき