丹波国・綾部藩(山裏組)池田城の一族
― クランヒストリー ―
著 | 池田勝徳 |
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判型 | A5頁:326 |
ISBN | 978-4-434-31109-3 |
発行 | 2022年9月 |
定価 | 5,500円(本体5,000円+税)
在庫:○
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本著は著者が『丹波国・綾部藩(山裏組)池田城の一族』の表題のもとに、さまざまな既存の著書、資料と在郷の池田株の方々の協力を得ながら何度か現地調査も実施し、それらを踏まえて「生存・生命の維持」を基礎に、その行動の背景を探り、池田城(館)に関わってきた人々の対応と実態を「クラン(一族)ヒストリー」として纏め、合わせて第二次産業革命ともいいえる・二十一世紀の「デジタル社会」への可能性を模索したものである。そのためこれまでこの種の書籍が「中心人物の生き様」を視点に置いて執筆されてきたのとは違って、「書」としての正否は兎も角、人々の生存(基盤)に分析視点を据えて、その行為を踏まえて生活の実態を中心に執筆した。そして予想される二十一世紀のデジタル社会の可能性を客観的、科学的に模索したものであるために、既存の歴史書(ヒストリー)を念頭に考えられてきた読者は「あれ?」と、そんな思いを抱かれるかも知れない。が、著者はこの執筆をとおして(詳細はご購読いただければ納得いただけるかと思うが)、次のような確信をえることができ、久しぶりに満足感を抱けたのは事実である。
それは過去から未来について、右記の一貫した視点に立って執筆された書籍は、ほとんど見当たらなかったことに加えて、次のような確信をえられたことにある。
①第二次世界大戦終了・敗戦までの生存の根底は、基本「武力」を背景に、安易な生存基盤の獲得(土地・原材料および生産手段たる機器・道具、そして労働力(人))に向けて、その行為を納得させる諸々の理由をつけて争い・戦がなされてきた。②敗戦後は、全世界がそうした略奪等の一方的な、安易な方法・方向による目的・行為の承認は得られず、政治・経済など一定のルールに従い、「合意形成」に沿って行為・行動する方向が唯一可能な方向となった。そのため先端諸科学・技術を駆使して、それ(生存材料など)を製造・生産するという方向に舵がとられているし、それがそのあるべき途、方向となっている。加えて③二十世紀末から始まった情報・デジタル社会にあっては、従来の生存・生活にとって不可欠なものの入手・取得が、これまでのように方法や場所なども固定・特定されないばかりか、自然状態では存在しないもの(食材や資源など)を、先端科学、技術を駆使して新に創造・製作する可能性も生まれて、生産・生活それ自体に大きな変化・変革の可能性が現実のものとなってきた。そうした刻々と変化する社会において生存・発展の諸々の要因を、弁証法的、科学的視点に立って、その可能性を客観的に把握する必要性が一層強化されている、こうしたことを確認した。
本著対象の人々が住んでいた池田城(館)は、南北朝期、約七百年前に現在の福知山市の「向池田」の地に「小さな城(館)」を定めているが、今はその館跡しか残ってはいない。しかもその池田城(館)跡を守ってきた人達も、今は殆んどの人が高齢者となっている上に、戦後の高度経済成長の進展によってその地を離れ、他の産業に生存基盤を移行させた(第一次離農向都現象を、明治維新後の近代化の時期とすれば、それは第二次の)、人達のUターン現象もなく、一層高齢化した過疎化社会となってきている。加えて日本の場合は、そうした離農現象の動きも欧米諸国とは異なり、その生存基盤である耕地が狭いことに加えて、社会保障制度などが貧弱だったこともあって、土地に対する意識は欧米諸国とは大きく異なっている。それにまた平均寿命が、世界一の長寿国になったこともあって、過疎化や放棄地などもすぐには深刻化して大きな問題にはならなかった。しかし先祖伝来のその土地を「守る」といった、地元の人たちの強い使命感に支えられて、荒廃することなく守られてきた故郷も、ほとんどが高齢者主体となって支えることが難しく、消滅の危機に曝されているというのが今の実態である。たしかにそうした厳しい状況になってはいるが、問題解決、止揚の可能性が皆無というわけではなく、予想される「デジタル社会」にその可能性が求められることである。が、そうだとしても産業革命後、第二次、第三次産業を主体とした「資本主義社会」の完成までに二百年以上かかったように、時間がかかることは事実でありそれなりの年月を要すると思う。それにまたその池田城(館)のある地域は、そしてその長(おさ)の池田帯刀守は、楠木正成とは少し後の人物であるとはいっても、彼とは違って、これといった歴史上に大きく記載されるような戦などを記した文献なども、何もみあたらない小さな集団・コミュニティの長(おさ)である。しかしながら池田城(館)を守ってきた人々にとっては、そこは自らの生命を支えてきた場所・コミュニティであり、今後どのような社会となるのかなど、いろいろと知りたいところである。ところが断片的に記載されたそれらの資料や口述資料だけでは、とても体系的にその背景を探ることは不可能であるし、まして一冊の書にするにはあまりにもその資料は少なすぎた。そこで本著では、まずそれら僅かに残っている資料・書物に記載された、「池田城(館)に関する事項」を整理することから始めた。そしてそれを踏まえて二十世紀末からは生存基盤が新たな、デジタル情報・機器を主体にした社会(デジタル社会)へと、日本はじめ全世界がその方向に進んでいる動向を視野に、二十一世紀の未来社会を予想し記述するということで執筆し、全体をまとめることにした。
従ってこれでもって、新たな学術的な発見とか知見を提示しえているとは決して思っていないし、ましてパンデミック(コロナ禍)の状況下で、諸々のことが規制・制限されている上に、出来れば年度末の恒例の「株講の行事」の前までにはとの思いもあって、急ぎ纏めたために粗削りなものになってしまった。しかし逆にそれ故に、本著を手にされている読者が、著者がここで扱おうとした事柄や問題に関心を抱かれた場合には、是非発掘などをして、埋蔵物のDNAや地質分析など、最新の科学・技術を駆使して、科学的な分析を加えていただき、誤りや疑問を解明していただければと願っている。そのこともあって可能な限り、引用、掲載した文献・資料等に、手を加えるなどはしないで掲載することにした。
本著は以上のようは勝手な様々な思いを込めて、専門外の著者が臆することもせず執筆したものであって、あるべき視点など斬新な、客観的な知見をお持ちの読者や研究者などから、色々とご教授いただければ大変有難いし、また本著がそのための手がかりとなり、その一助になるなら著者の望外の喜びとするところである。
令和四年七月吉日 池田勝徳
- まえがき
- 第一節 日本史に見る丹波の国
- 第二節 律令制と丹波・六人部荘
- 第三節 建武の新政と丹波の国人衆
- 第一節 律令制にみる諸矛盾
- 第二節 南北朝の成立と室町幕府
- 第三節 室町幕府の崩壊と戦国時代の到来
- 第一節 戦国時代の到来と諸大名の出現
- 第二節 株・株講の基礎的な理解と人々の生活
- 第三節 南蛮貿易およびキリスト教の影響とその対応
- 第一節 織豊政権の南蛮貿易およびキリスト教
- 第二節 徳川政権の成立とその実態
- 第三節 封建社会の急激な崩壊になった産業革命の成果
- 第一節 明治新政府と資本主義社会への動向
- 第二節 資本主義の発展に寄与した人や事物
- 第三節 明治以降の概要と高度経済社会
- 第一節 敗戦後の変化する社会
- 第二節 コンピュータの発達とIT、AIなど高度情報化
- 第三節 予想されるデジタル社会
- 第一節 基本的な人間と社会の理解
- 第二節 観念論と唯物論の概要
- 第三節 歴史の背後にある事項
- 本著執筆の主要参考文献
- あとがき