対話のぬくもり 現代の孤独問題とカウンセリング
著 | 本橋英之 |
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判型 | 四六頁:216 |
ISBN | 978-4-434-31570-1 |
発行 | 2022年12月 |
定価 | 1,320円(本体1,200円+税)
在庫:○
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電子版 | 1,100円(本体1,000円+税)
在庫:○
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長期化するコロナ禍、そしてインターネットの影響力が増大したこの時代は、以前から社会問題化していた孤独のありかたに加えて、さまざまな新しい孤独を生み出しています。この問題に対しては、新たな社会システムの構築などをめざす社会的政策が必要です。さらには、相談事業を中心とした、当事者に対する個別的なアプローチが求められています。
この本の内容は、「現代の孤独とその心理的援助」についての考察です。
まず、カウンセラー(援助者)から見た現代の孤独の具体的なありようや、孤独な状態を維持する心理的・性格的要因を明らかにします。そして、孤独とのつきあい方やそれを乗り越えていく方法を探っていきます。また、インターネットとメンタルヘルスについて現状を概観し、心理の非専門家と専門家の違いを解説します。最後に、援助者と被援助者の関係性の視点からカウンセリングを論じました。
心理面接の概要を学ぶためのガイドとしても読めます。カウンセリングに関心のある一般人の方や初学者の方に向けて、できるだけ平易な言葉で基本的なことを語りました。あえて専門用語を使わず、噛み砕いた説明も多くなっています。中堅以上の援助者は基本事項の再確認ができると思います。
人の心は千差万別であり、複雑微妙なものです。また、心理臨床には多様な職域、立場や考え方の違いがあります。孤独は1冊の本では語り尽くせない大きなテーマと思われます。しかしながら、現時点での私なりの考えを自由に語ってみました。社会的な問題をすべて個人の問題にすり替える意図はなく、本書はあくまで孤独問題の心理的側面を中心に考察したものです。
私は今まで、大人を対象とした対面心理療法を中心に行ってきました。精神科・心療内科クリニック常勤職15年を含み、臨床経験は21年ほどです。したがって、その立場からの話になります。クライエント中心療法を軸として、有用だと思われれば他の諸学派の考え方も取り上げました。学派の違いによる対立はあまり意味がなく、それぞれに得るところがあると認識しています。
本文中で何度も使用している「クライエント」という言葉は、馴染みのない方もいらっしゃるでしょう。これは「来談者(被援助者)」のことを指します(本書で用いる「援助者」、「被援助者」という言葉は、それぞれ正確には「心理的な援助をする人」、「心理的な援助を受ける人」のことを指します)。なお、今まで私が関わった方々の個人情報に関しては、事例として露骨に記載しないように配慮しています。文中の具体的記述はおおむね特定の個人のことを指しているのではありません。世の中にありがちな例として理解していただけると幸いです。
本書は、私が所属する心理相談室「しまうまカウンセリング」のブログに投稿させていただいた、個人的見解に基づく記事を全面的に加筆修正し再編集したものです。臨床現場で試行錯誤をしながら考えたことをまとめています。
- まえがき
- 孤独は現代の社会問題
- 不安や抑うつを抱える人の増加
- ふれあいを喪失した大学生
- 自粛生活と家族関係の変化
- 高齢者の認知機能の低下
- 感染恐怖と強迫症の悪化
- 死別による遺族の悲しみ
- 前向きになるために
- ・抵抗力や対処力をつける
- ・考え方の七つのヒント
- ・取り組み方の七つのヒント
- ・気分を明るくする七つのヒント
- ・行動を開始するまでがたいへん
- 人間関係に疲れた人へ
- 周囲から必要とされる感覚
- 変えられないものとつきあう
- 幸せの存在を信じてみる
- 孤独は良いもの? 悪いもの?
- 自分への駄目出しが過剰
- 臆病で疑心暗鬼になっている
- 控えめな内向的性格
- 理解されないひきこもり
- 考えを変えず意地を張る
- 怒りをコントロールできない
- 地道にものごとに取り組めない
- 対等な人間関係を築けない
- 自分のカラーを出しすぎる
- コミュニケーションスキルの課題
- ・内容に矛盾がある
- ・タイミングを間違える
- ・自分は発達障害ではないか
- ・発達障害の診断が増えた原因
- 孤独を生む三つのパターン
- 現代社会とサイバー空間
- オンラインカウンセリングの拡大
- 未来の心理臨床の形とは
- ネットの海から正しい情報をつかむ
- ・病気や障害に関する誤った情報
- ・チェックリスト診断の危うさ
- ・無責任なアドバイザーもいる
- ・SNSには面白い投稿もある
- ・嘘の情報を見分けるポイント
- ・そのカウンセラーのイメージは本当?
- 訓練された援助者の見分け方
- ・人を理解する難しさを知っている
- ・きめ細かく事実や感じ方を聞く
- 専門家が実績を示していく
- カウンセリングにおける関係性
- また来たくなる相談室の雰囲気作り
- ・あるネパール人店長の話
- ・人柄や温かい態度が土台になる
- 来談したクライエントをねぎらう
- 丁寧に傾聴する方法
- ・相手の世界を尊重して聞く
- ・言葉の使い方に注意を払う
- ・コミュニケーションのずれをなくす
- 非言語的メッセージの重要性
- 相手の物語に思いを馳せる
- わかること、診断と見立て
- 生きた人間と向き合える時間
- ・関係性の中で気持ちを言葉にする
- ・カウンセラーもまた孤独なのか
- ・心理的援助を目的とした対話
- あとがき
- 参考文献