柔軟に挑む
現代医学の盲点・骨盤の粗面と仙腸関節
平均寿命は延びているが、年を重ねるごと体には 多岐にわたる支障が生じてくる。それゆえ、あらゆる疾病の要因が解明され、予防法を習得し実践することはもはや人類にとって不可欠である。本書は、腰痛をはじめ様々な病気で悩む方に、その疾病の原因や要因、その経過やメカニズムを解明するための一助となる実践書である。
編著 | 寺本喜好 |
---|---|
判型 | A5頁:214 |
ISBN | 978-4-434-33048-3 |
発行 | 2024年7月 |
定価 | 1,200円(本体1,091円+税)
在庫:○
|
本書の第1部は福知山支部の患者さんたちが主宰されていた「またひらこう会」で発表された生の体験発表そのものと、その後投稿して頂いた赤裸々な体験談です。「またひらこう会」の名称は難症の股関節脱臼症を含めた患者さんたちの発意で、「心を開いて股も広げ、何度も開いて励まし合いましょう」と切なる願いを込められた名称です。患者さんの中には「遠いところから来て、高い料金を支払い、時には痛いこともされて、有難うとお礼言わないかん、それでも来ないといけない!」と本音を吐かれることがあります。永年苦しみ、あきらめや絶望の境地から脱出されて、本人の持つ「自然良能」を引き出し、元気を取り戻される姿に私の方が大いに励まされています。この記録は残しておきたいと遅ればせながら上梓した次第です。
そして第2部には解剖学を基本とした運動生理学を駆使して、行き着くところ「つる草」や「軟体動物」などのような柔らかい身体を目ざして、色んなことに柔軟に対処できるように、また昨今の新型コロナウイルスなど混沌とした第三次世界大戦にも匹敵するような見えない敵とも臨機応変に対処でき、ピンチに対してはチャンスとして向き合えるよう希望と願いを込めて記したものです。
50年近い治療体験を通じて見えてきたものは骨盤が生命誕生の故郷であるということです。私たちは骨盤から生まれ、骨盤を基盤(動く土台)に発育成長し、いつも動きは小さいが凄いエネルギーで駆動する中心軸を有し、全身を動かして豊かな人生を謳歌してきました。二足のみで安定して立位をとることは並大抵にできることではありません。日常の作業、スポーツなど曲芸的で芸術的ともいえる諸行の積み重ねからやっと得られたものです。
悩み苦しまれる症状の大元には腰や足の負担から臓器を含めた諸病が発症し、体の中央にある骨盤に最も早く現れ、仙骨の下垂、寛骨の左右差、捻転などの骨盤変位の兆候が見られます。意識して疲労素を取り除きながら鍛えていかないと腰痛、だるさなど感じられ、足の血行不良や疲れなどで浮腫みや垂れ尻、顔や顎のシワ、乳房などにも弛みが出てくるのも全て地球の重力の影響を受けていると考えられます。
私たちは日ごろから溜まった疲労素を放出し除去しないと、新しい栄養が届けられません。治療は循環の悪くなった箇所を見つけ疲労素を取り出して新しい血液を送り届け、やがて自然良能を引き出せるように周りから手助けすること、これが私たち治療師の務めです。
私事になりますが1974(昭和49)年、ご縁があって東邦医科大学の石塚寛助教授の紹介で解剖学教室に聴講生として解剖見学が許され、興味のある骨盤標本を3年間つぶさに拝見させて頂きました。さらに幡井勉教授の推薦で日本解剖学会にも入会し、全国の学会に出席してきました。しかし、その当時も骨盤の研究発表は殆どありませんでした。1985(昭和60)年から自然良能会本部講習会で石塚先生が世界の多くの骨盤研究論文を紹介されるようになり、1991 年放送大学の卒業論文に引用して東邦医科大学の五味敏昭助教授の多大な援助によって卒業することができました。その後2年間の研究生時代より6編の研究論文を理学療法誌に掲載してきた経緯があります。
1998(平成10)年1月24 日早朝、「骨盤治療法」だけは残して逝きたいと、骨盤調整法の創始者五味雅吉会長は奥さんの美那子さんの膝元で昇天されました。多くの著書を世に出され医学界に新しい波紋を広げて国内のみならず海外にも隆盛を極めました。その後20 年以上にわたり令息五味勝先生が自然良能会を引き継いで牽引して頂いています。私も若輩ながら初代五味雅吉会長の熱意を少しでも引き継ぎたいと、骨盤の威力に心から魅せられ、1990 年代の骨盤に関する論文を和訳して私なりの骨盤研究に取り組みました。そうして齢を重ねることによって骨盤や腰部はどのように変化していくのか、とても興味が膨らみ30 年あまり骨盤の計測を続けています。まだまだ不十分ですが一定の傾向や成果が見られ、2017(平成29)年、五味敏昭埼玉県立大学教授の執筆にて長崎大学で開催された「第122 回日本解剖学会」のポスター展示に発表させて頂きました。
こうして辿り着いた今、体の動きには中心軸があって仙腸関節を動かし全身を駆動する「骨盤粗面」の存在に気付き、理論的にも実際の治療においても納得できるようになり、生涯にわたり負担の大きく係るストレス部位であることが判明しました。今回はこれまでの実状と成果をまとめ、骨盤粗面の有効な治療法がこれから見出せればこの上ない幸せです。
2024年7月 寺本喜好
- まえがき
- 目次
-
- 1.たかが腰痛と知らず壊して気付いたら 寺田信子
- 2.夢 福山美樹
- 3.酒蔵の杜氏として 和田史郎
- 4.教習所教官として 西山朋美
- 5.順調に回復して 上田慎二朗
- ▶コラム1◀ 新聞掲載記事
-
- 6.事故など災害にあって 藤井博司
- 7.骨盤調整を信じて頑張って得た成果に感激 高見朋美
- 8.手術直前に 中谷晃子
-
- 9.幼い時から苦難を 希望に向かいて 塩見茂雄
-
- 10.無理して悪いのはわかっていた 中川陽子
- 11.こんな筈ではなかった 福本桂子
- 12.峠の向こうの春を信じて 山田涼子
- ▶コラム2◀ 継続は力
- 13.多くの人々に支えられての3年間 東山峰子
-
- 14.出来たら手術しないで治したかった 佐藤しのぶ
- 15.40年ぶりに帰郷して慣れない作業から腰を壊して 影山洋一郎
-
- 16.手術はしてみたが 森嶋ひとみ
-
- 17.通勤途中の事故に遭って 小島華子
- 18.当時の金融機関の激務に耐えきれず 松山美佐
- 19.虚弱体質の上に頚椎骨折まで重ね不安の毎日から 横川大介
-
- 20.脳内出血の後遺症に悩まされて 福本恵美子
- 21.鼻つまりで夜中に死んでしまうのでは 大山良樹
- ○患者による治療所レポート
-
- 1-1.ヒトが直立したメリット
- 1-2.直立によって生じたデメリット
- 1-3.「骨盤粗面」と「仙腸関節」についての歴史
- 1-4.不利な点を克服して生涯かけて創っていく
- (1) 静止した建造物の免振構造
- (2) 植物の強靭さから学ぶ
- (3) 人体の免震構造
- (4) 中心軸を正して骨盤をしなやかに
-
- 2-1.脊骨を立てる姿勢形成の基盤
- 2-2.運動機能で中心的な役割
- 2-3.身体の重心を抱いて平衡機能の調整
- 2-4.臓器の働きを守って下垂を防いでいる
- 2-5.重力や衝撃から身をまもる緩衝構造
- 2-6.セックスや妊娠出産など生命誕生の故郷
- 2-7.骨盤は禍や病気が始まるふるさとでもある
- 2-8.造血作用と免疫力を生涯生み出す
- 2-9.腰仙骨神経叢による働きと自律神経に関与
- 2-10.脳脊髄液の循環促進による脳の活性化
- 2-11.骨代謝と酸アルカリ(塩基)の調節に関与して、体液の弱アルカリ性を維持
- 2-12.死後、生前の健康状態を知ることができる
- 2-13.性差、年代差、民族差などを著明に表出する
- ▶コラム3◀ ネルソン・マンデラの生きざま
-
- 3-1.動きの中心軸「仙骨粗面と仙腸関節」について
- 3-2.骨盤傾斜の進化
- 3-3.骨盤腰背部の計測
- 3-4.骨盤計測結果から「腰痛」のメカニズムを考察する
- 3-5.各種の骨盤形態
-
- 4-1.仙骨は骨盤の中へ下垂する
- 4-2.男子大学生における姿勢形成の要因について
-
- 5-1.血液の循環次第で柔軟になれる
- 5-2.柔軟は継続しかない
- ▶コラム4◀ 成功と幸せの秘訣
-
- 6-1.末端から中心に向かって緩め、弾力をつけていく
- (1) 足の末端より柔軟体操
- (2) 体の中心 骨盤から緩める
- (3) 頑固な骨盤拘縮には器具を使って
- (4) その他の治療器具紹介
- ○からだを創る 心得カレンダー
- 6-1.末端から中心に向かって緩め、弾力をつけていく
- 参考文献
- おわりに