日本独自の対北朝鮮経済制裁の国内における政治的効果
The Domestic Political Effect of Japanese Unilateral Sanctions against North Korea
政治的な意味合いに焦点を当てて分析
北朝鮮に対する日本独自の経済制裁が国内政治に向けて積極的に作用した局面を分析し、国内における制裁の政治的効果の実相を把握するものである。本書で取り上げる経済制裁は、(1)2006年10月11日発表の経済制裁、(2)2016年2月10日発表の経済制裁、(3)2016年12月2日発表の経済制裁の3事例である。これら各事例の分析結果を政治的文脈で評価すれば、日本独自の経済制裁は、日本政府が北朝鮮による拉致問題に対する憤りやデフレで閉塞感を抱く国民の政治的要請に的確に応じ、毅然かつ断固たる姿勢を示し、実質的な意味での主権を取り戻す上で能動的な役割を果たしたと評価することができ、そしてそれはやがて日米同盟強化という政治的な文脈の中で、日本が「戦後レジームからの脱却」を主張する政治的なプロセスにおいて状況に適合し、能動的役割を果たしたものと評価できると主張するものである。
著 | 大久保伸一 |
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判型 | A5上製頁:284 |
ISBN | 978-4-434-34145-8 |
発行 | 2024年9月 |
定価 | 1,980円(本体1,800円+税)
在庫:○
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序章 論文のテーマ及び研究方法
- 第1節 問題の所在
- 第2節 本論文の意図
- 第3節 本論文の論点
- 第4節 先行研究及び本論文の研究方法
- 1 先行研究
- 2 本論文の研究方法
- 第5節 本論文の構成
- 第6節 本論文の意義
第1章 経済制裁の概念、「独自の」という概念の意味、政治的効果についての整理
- 第1節 経済制裁の概念及び「独自の」という概念の意味
- 1 経済制裁の概念
- (1)経済制裁の概念
- (2)経済制裁の分類
- (3)エコノミック・ステイトクラフトとの関係
- 2 「独自の」という概念の意味合い
- 1 経済制裁の概念
- 第2節 経済制裁の効果に関する議論の整理
- 1 経済制裁の効果とそれを高める条件
- 2 経済制裁の効果についての分析
- (1)TSCデータセットの概要
- (2)TSCデータセットの分析枠組み
- (3)TSCデータセットにおける経済制裁の実効性評価結果
- 3 経済制裁に対する国内政治アプローチ
- 第3節 経済制裁の国内における政治的効果の意味合い
- 1 「国内における政治的」という概念の意味合い
- 2 「効果」についての理解
- 3 「国内における政治的効果」に対するアプローチの妥当性
- 第4節 小括
第2章 日本独自の経済制裁の構造
- 第1節 日本独自の経済制裁の構造
- 1 日本独自の経済制裁に係る法制度
- 2 外国為替及び外国貿易法
- 3 特定船舶入港禁止法
- 4 北朝鮮人権法
- 第2節 立法過程における特徴
- 1 議員立法の件数
- 2 法案提案の形態
- 3 経済制裁に対する姿勢の違い
- 4 議員立法の分野
- 第3節 小括
第3章 日本独自の経済制裁についての課題設定
- 第1節 独自の経済制裁の存在理由とその発動を阻むもの
- 1 独自の経済制裁の存在理由
- 2 日本独自の経済制裁導入以前の状態
- 第2節 日本独自の経済制裁の発動を阻むもの
- 第3節 国内における政治的効果を狙ったポジティブな働きかけと到達点
- 第4節 日本独自の経済制裁制度創設時の政治的状況
- 1 国内の当時の政治的状況
- 2 国際社会の政治状況
- 第5節 小括
第4章 諸外国における独自の経済的措置等の事例
- 第1節 米国の独自経済制裁の状況
- 第2節 EUの独自制裁の状況
- 第3節 小括
第5章 日本のこれまでの対北朝鮮経済制裁の概観
- 第1節 国連安保理決議等に基づくこれまでの対北朝鮮経済制裁の概要
- 第2節 日本独自の経済制裁の概要
- 第3節 日本独自の経済制裁をめぐる日米の対北朝鮮政策の連動と乖離
- 1 日本独自の経済制裁に対する米国の考え方
- 2 日本独自の制裁発動前のブッシュ政権期の考え方
- 3 2006年10月11日発表の日本独自の制裁発動と米国の姿勢
- 4 2006年11月の中間選挙後のブッシュ政権の政策転換
- (1)新たな対北朝鮮政策
- (2)6者会合における新たな合意の成立
- (3)対北朝鮮政策における日米間の乖離
- (4)政治的な言説
- 5 オバマ政権の対北朝鮮政策
- 第4節 北朝鮮の貿易状況のこれまでの推移
- 第5節 小括
第6章 日本・北朝鮮関係と日本の対北朝鮮政策
- 第1節 2000年代から2010年代後半の日本・北朝鮮関係
- 第2節 拉致問題
- 1 小泉訪朝と拉致被害者の帰国
- 2 日朝実務者協議、日朝包括並行協議などの進展と停滞
- 3 ストックホルム合意と経済制裁の一部解除
- 4 日朝政府間協議と特別調査委員会
- 5 北朝鮮の特別調査委員会の解体と調査中止
- 6 北朝鮮人権状況決議
- 7 解決されない拉致問題
- 第3節 核開発・ミサイル開発など日本の安全保障に関わる問題
- 1 北朝鮮の核不拡散条約脱退表明
- 2 「合意された枠組み」の成立
- 3 北朝鮮のウラン濃縮計画の発覚
- 4 重油供給停止への動きと北朝鮮の対抗措置
- 5 「6者会合共同声明」とその後の北朝鮮の態度硬化
- 6 日朝間協議と日朝包括並行協議
- 7 2006年の北朝鮮による弾道ミサイル発射と核実験の実施
- 8 6者会合における「共同声明実施のための初期段階の措置」
- 9 6者会合の崩壊
- 10 北朝鮮による核実験や弾道ミサイル発射と経済制裁の悪循環
- 第4節 日朝国交正常化に係る問題
- 1 3党共同声明と日朝国交正常化交渉の開始
- 2 北朝鮮の経済難、食糧難、社会不安と国交正常化交渉の進展
- 3 小泉総理訪朝と日朝首脳会談
- 4 日朝平壌宣言
- 5 日朝国交正常化交渉の再開
- 6 小泉総理の再度の訪朝
- 7 日朝国交正常化についての日本政府の基本的な認識
- 第5節 3つの諸課題の相互関係
- 1 拉致問題と核、ミサイルという安全保障の問題との関係とその変質
- 2 諸懸案の包括的な解決
- 第6節 小括
第7章 2006年10月11日発表の独自経済制裁の国内における政治的効果(事例1)
- 第1節 経済制裁発動の状況
- 第2節 日本政府の対応の状況
- 1 小泉前政権の日本独自の経済制裁に対する基本姿勢
- 2 安倍政権の成立
- 3 安保理決議に向けての動き
- (1)安保理決議第1695号採択に向けた動き
- (2)安保理決議第1718号採択に向けた動き
- 第3節 新政権の新たな取組み
- 第4節 国内における政治的効果の考察
- 1 政権と衆議院、参議院の関係
- 2 政権と拉致被害者家族会の関係
- 3 政権と国民一般の関係
- 第5節 北朝鮮の反応
- 第6節 小括
第8章 2016年2月10日発表の独自経済制裁の国内における政治的効果(事例2)
- 第1節 経済制裁発動の状況
- 1 2007年9月の安倍内閣退陣以降の推移
- 2 2012年12月の安倍内閣成立からストックホルム合意までの動き
- 3 日本独自の経済制裁の一部解除
- 4 制裁の一部解除後の動き
- 第2節 国内における政治的効果の考察
- 1 政権と衆議院、参議院の関係
- 2 政権と拉致被害者家族会の関係
- 3 政権と国民一般の関係
- 第3節 北朝鮮の反応
- 第4節 小括
第9章 2016年12月2日発表の独自経済制裁の国内における政治的効果及び事例分析の整理(事例3)
- 第1節 経済制裁発動の状況
- 第2節 国内における政治的効果の考察
- 1 政権と衆議院、参議院の関係
- 2 政権と拉致被害者家族会の関係
- 3 政権と国民一般の関係
- 第3節 北朝鮮の反応
- 第4節 3つの事例分析についての整理
- 1 「政権の示した姿勢」
- 2 「制裁発動の要因ないしその原動力」
- 3 「政治的効果」
- 第5節 小括
第10章 政治的文脈における日本独自の経済制裁の政治的意味合いと次なる課題
- 第1節 国内における政治的文脈
- 1 小泉政権成立までの日米同盟の変遷
- 2 小泉政権を取り巻く日米同盟をはじめとした政治的文脈
- 3 安倍政権を取り巻く日米同盟をはじめとした政治的文脈
- 第2節 日本独自の経済制裁を取り巻く政治的文脈の中で目指したもの
- 第3節 日本独自の経済制裁の次なる課題
- 第4節 小括
終章 まとめ
- 第1節 総括
- 第2節 残された課題
- 謝辞
- 参考文献目録
- あとがき
表目次
- 表1 日本・北朝鮮間の輸出入額の推移
- 表2 北朝鮮の主要貿易相手国との貿易総額の推移
- 表3 衆議院 拉致問題特別委員会の日数及び会議時間
- 表4 国連安保理決議及び日本の独自制裁への支持・不支持状況
- 表5 安倍内閣の支持率(2006年9月調査から2007年3月調査)
- 表6 安倍内閣の支持率(2015年11月調査から2016年5月調査)
- 表7 内閣支持率の2年間の推移(2015年7月から2017年6月)
- 表8 安倍内閣の支持率(2016年9月調査から2017年3月調査)
- 表9 日本・中国・韓国・米国の名目GDPの推移