成功事例から学ぶ旅客船での避難行動
~避難成功は次の成功の基になる~
著 | 中山こうせい |
---|---|
判型 | A5頁:94 |
ISBN | 978-4-910135-07-6 |
発行 | 2023年12月 |
POD | 1,100円(本体1,000円+税)
在庫:○
|
2022年4月23日、北海道知床沖で乗客・乗員26人を乗せた観光遊覧船が沈没し、全員が死亡または行方不明となる事故が発生した。これまでも、〈タイタニック〉をはじめ、〈洞爺丸〉〈紫雲丸〉〈セウォル〉など、国内外で観光船やフェリーなどの旅客船での事故が繰り返し起こり、多くの犠牲者が発生した。大きな事故が発生するとその都度、テレビや新聞等で大々的に報道され、海上保安庁や運輸安全委員会、研究機関、旅客船事業者などが連携し、原因分析が行われており、再発防止策が講じられてきた。その結果、今日では安全性が向上し、事故は減少傾向にある。
しかし、21 世紀の今日でも、知床遊覧船事故をはじめ、国内外でフェリーや観光船での事故が発生しており、さらなる事故防止、被害軽減について考えていかなければならない。
事故のメカニズムは機械的な側面、外部環境、ヒューマンエラーなど様々な要因が重なって起きる。しかし、どんなに機械的に優れていても、気象や海象の条件がよくても、最終的に事故の原因となるのは「ヒト」である。したがって、事故の防止や被害軽減について考えるうえで、「ヒト」の行動から考察することは大変重要である。
事故の中には、幸い死傷者が出なかった事故もある。しかし、こうした事故はあまり大々的に取り上げられることがなく、終わってしまうことがある。しかし、死者を出さなかった事故からも「教訓」が得られる。むしろ、死者を出さなかった事故にこそ、被害を出さなかったキーワードがある。
一番望ましいことは事故を起こさないことであるが、残念ながらヒューマンエラーを完全にゼロにすることは難しい。もちろん、事故を予防することは第一であるが、万一、事故が発生しても、人命を守ること、被害を軽減させること、即ち「減災」が必要である。「減災」は、船舶の事故だけでなく様々な場で応用できるものである。東日本大震災を教訓に、「減災」の考え方も重要視されるようになった。しかし、具体的にどう行動するのかという問いの答えははっきりと見つかっていない。それは船舶の事故でも同じである。
本書では、過去に起きたフェリーや観光船などの旅客船の事故のうち、船体は全損したが死者を出さなかった事故、つまり避難に成功した事例から、緊急時の避難行動について考えていく。
また、本書では旅客船での事故を対象にしているが、「成功事例」を分析することは船舶以外の場でも応用できるものである。船舶だけでなく、「成功事例」から防災・減殺を学ぶことは様々な分野で活用できるのではないかと考えている。
本書は、船舶について学ぶ学生や事業者だけでなく、鉄道や航空などの交通・運輸関係、観光関係の事業者、福祉、保育など船舶以外の分野でも応用できる部分もあり、幅広い方々に読んでいただき、今一度、自分の命、お客様の命を守るために活用していただけたら幸いである。
本書執筆にあたり、事故で犠牲になった方々へのご冥福をお祈りするとともに、船や旅行の安全対策が進み、こうした事故がなくなることを心より願っている。
2023 年11月30日 中山こうせい
- はしがき
- 1.危機と避難行動
- 2.非日常での避難行動
- 1.非常時における個人レベルでの心理
- 2.非常時における群衆レベルでの心理
- 1.大事故と報道発表、再発防止への取り組み
- 2.失敗を食い止める成功研究とハインリッヒの法則
- 3.2 つの北陸トンネル火災 ―「成功例」分析の教訓
- 1.事故発生の特徴
- 2.事故分析の手法
- 1.クルーズ船が全焼沈没 ~クルーズ客船〈ヤーマス・キャッスル〉火災事故~
- 2.多くの修学旅行生が犠牲に ~宇高連絡船〈紫雲丸〉衝突沈没事故~
- 3.今日でも起こるフェリーの沈没事故 ~韓国〈セウォル〉沈没事故~
- 1.乗客245 人を乗せて、洋上で火災発生、船体は全焼・沈没 ~クルーズ船〈サン・ビスタ〉火災沈没事故~
- 2.未明の暴風雨の中、フェリーが傾き、転覆 ~フェリー〈ありあけ〉船体傾斜転覆事故~
- 3.未明の来島海峡で、245 人の乗ったフェリーがタンカーと衝突、沈没 ~フェリー〈さいとばる〉衝突事故~
- 4.楽しいはずの修学旅行が恐怖に……小学生52 人を乗せた遊覧船が沈没 ~与島沖小型遊覧船沈没事故~
- 1.「最悪の事態」を想定―早めの避難、通報が鉄則
- 2.緊急時こそ「ホウ・レン・ソウ」の徹底
- 3.情報のコントロールも有効
- 4.現場にあるものを活用
- 5.乗組員のみならず、乗客の協力も重要
- 【付録】ヒヤリハットを分析しよう
- 参考文献
- あとがき